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日本エアシステム機内誌「アルカス」1998年7月号掲載 (国際線就航10周年)
東京・下町に残る「江戸」の伝統工芸 何もかも最先端を行っているかのように見える東京だが、台東区や墨田区などいわゆる下町に
は今もしっかりと江戸時代の伝統が残っている。江戸凧やミニチュア玩具だ。
撮影・取材 馬場高志
江戸凧の技術を受け継ぐ数ミリから1センチまでのミニチュア玩具
![]() 浅草から隅田川に架かる言問橋を渡って数分。マンションの1階に、大小様々な凧を飾った店
がある。江戸凧と呼ばれるもので、空に揚げるより縁起物として部屋に飾ったり贈り物として使
われることが多い細工物だ。数十センチの大きいものもあるが、煙草の箱程度の小さいものに
伝統工芸品としての面白さが感じられる。
店の名は「唐変木庵」。この店のもう一つの売り物は、レンズで拡大しないと仕組みが分からな
いほど小さな玩具だ。
ミニチュア玩具の制作者は、店主の神野有二さんの息子・神野哲也さん(39才)。
父親の影響で始めた江戸凧作りが本職で、凧作りは中学校1年生から始め、今は25年近くの
ベテランである。ミニチュアの制作は本格的に始めて7〜8年になる。
ある日、注文の凧を届けにお客の家に行ったところ、玄関にミニチュアの細工物があり、見てい
るうちに“面白いこれなら自分にも出来る!平面的な凧絵ではない立体的なものだ。どうせ作る
なら動きのあるほうがもっといい、そうだ「からくり」だ”と考えた。それから本格的に作り始めた
が、大きさは、大体数ミリから1センチ以内の物ばかり。しかもその小さな物に“からくり”つまり
仕掛けが隠されているから驚きだ。 例えば、猫の手が動く「招く猫」(まねくねこ)、押すと足で
車輪を回す「一輪車に乗る人」、箱の蓋を引くと中から鼠が出てくる「鼠を追う猫」、糸を引くと首
が“にゅ〜”と伸びる「ろくろ首」など、どれも1センチ程度の大きさなのに精巧な仕掛けが施され
ている。
この他に型抜きや一品、絵などと呼ばれる技法の作品や、小さなガラス瓶に飾り物を入れた瓶
入りもある。日常目にするもので、“面白い”と思った物は何でも挑戦し、工夫し、失敗を重ねな
がら作り上げてゆく。
![]() ![]() ![]() “からくり”の場合、小さければ小さいほど材料の素材が弱くなるので材料選び
は慎重にやらなければならない、爪楊枝、割り箸、つげ、などを使うことが多い。つげは、“つげ
ぐし”を作っている所から残り木を貰う。つげは細かく削れ、細工しやすい。削り物の道具は、
カッターナイフと針だったのが、針の替わりピンバイス(径0.3ミリの小型ドリル)を使うようにな
って飛躍的に“からくり”物が増えた。他に道具としては特になく、作品の制作に当たり、その都
度道具をこしらえる。 これらの道具を駆使して20年目にしてやっと成功したというのが、チェ
ーン付き爪楊枝だ。「出来た時は、嬉しくてたまりませんでした」と笑顔がこぼれる。
百人一首の制作期間は約3ヶ月、1日平均7時間の重労働。「まさに体力勝負、頭もボーっと
して来ましてね 大変だった うん。」 百人一首は、台紙に金箔を貼り付けるところから始まる
が、はじめ糊を使ってもなかなか上手く貼れず、四苦八苦の末やっと薄い金箔を貼るのに成功
。その台紙の上に人物の絵を描いた薄紙を貼り、ある大きさに切る。縁取り用の黒、茶紙を裏か
ら貼り表で折り返す。最後に縦横約15ミリ×10ミリの札の上に文字を書き入れて完成である。
手順としては多くない、しかし指先の微作業で小さいだけに手は抜けない、と言うのも、小さい
だけに人は、目を凝らして見るからだ。 枚数が枚数だけに、並みの集中力では出来ない。
![]() ところが意外に本人が気に入って自慢しているのが、百人一首の札を入れている箱なのである。
この箱、蓋をするときピストンとシリンダーの関係のように、力を入れると反発を感じる。寸法が
正確な証拠である。「測らない方がうまく行くよ」と言い寸法を測ることなく五感で作る。
神経を使うのは、各地でおこなわれる実演での移動。片付ける時など一度紛失すると諦める
ほかない、二度と出てこないか、踏み潰している、のどちらかだ。もう一つ気になることは、作品
展示場に訪れる子供だ、実演中かなり気になるらしい。
実は、筆者も撮影のため僅かな力で触ったつもりが壊してしまった作品があったことを、心より
お詫び申しあげます。
「これからは、焼き物、金属加工、漆もやってみたい」と神野さんの夢はまだまだ膨らむ。
これからも貴重な技で、私たちに夢を見させてくれるだろう、ぜひ頑張り続けて頂きたいものだ。
「唐変木庵」 東京都墨田区向島2−22 03−3623−2540
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